ピロリ菌除菌治療

ピロリ菌って何?

 

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 正確にはヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)という名前です。胃の粘膜に生息しているらせんの形をした細菌です。ヘリコバクターの「ヘリコ」は、らせん形(ヘリコイド helicoid)から命名されており、ヘリコプターの「ヘリコ」と意味は同じです。一方の端に鞭毛とよばれる毛が4~8本ついていて、活発に動きまわります。

 胃には胃酸と呼ばれる強い酸があるため、昔から細菌はいないと考えられていました。1982年にオーストラリアのワレンとマーシャルという医師が、胃の粘膜からの培養に成功し、ピロリ菌が胃の中に生息していることを報告しました。

 その後のさまざまな研究から、ピロリ菌が胃炎や胃潰瘍などの胃の病気に深く関わっていることが明らかにされてきました。

ピロリ菌を除菌するとどうなるのですか?

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 ピロリ菌の除菌が保険適応になるまでは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者さんの多くが再発を繰り返し、潰瘍からの出血で血を吐くことも少なくありませんでした。ピロリ菌を除菌することによって、上のグラフのように完全ではありませんが、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発が抑制されることがわかってきました(Asaka M. et al: J Gastroenterol. 2003; 38(4)339-47より改変)。

ピロリ菌と胃がんは関係あるのでしょうか?

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 胃癌とピロリ菌は密接に関連しているといわれています。胃潰瘍・十二指腸や胃炎などの患者さんを対象としたわが国の調査では、10年間で胃がんになった人の割合が、ピロリ菌に感染していない人では0%だったのに対し、ピロリ菌に感染している人では2.9%だったと報告されています(Uemura N. et al: N Engl J Med. 2001: 345(11): 784-9より作図)

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 ピロリ菌を除菌すると、新しい胃がんが発生する確率を減らすことが出来る可能性があります。早期胃がんの治療後にピロリ菌を除菌した患者さんは、除菌をしなかった患者さんと比較して、3年以内の新しい胃がんの発生が約1/3だったと報告されています(Fukase K. et al: Lancet. 2008: 372(9636): 392-7)。

ピロリ菌の感染を予防する方法はあるのでしょうか?

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 残念ながら、ピロリ菌感染を予防する方法は、よくわかっていません。日本でのピロリ菌感染率は、上下水道が十分普及していなかった時代に生まれた団塊の世代以前の人は高いのですが、若い世代の感染率は低くなり、10代・20代では欧米と殆ど変わらなくなってきました。衛生環境が整った現代では、ピロリ菌の感染率は著しく低下しています。

ピロリ菌の除菌治療はどのように行うのでしょうか

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 ピロリ菌に感染していると診断された方は、まず抗生物質を2種類、胃酸を抑える薬を1種類、合計3種類の薬を1週間服用します。萎縮性胃炎の方はそのまま8週間後に、十二指腸潰瘍・胃潰瘍の方は、潰瘍治療薬をそれぞれ6週間・8週間服用し、その後8週間あけて除菌判定を行います。除菌判定は原則として呼気試験で行います。朝食を抜いて風船を2回吹いて帰るだけの簡単な検査です。9割の方は1回目の除菌治療で成功します。1割の方は不成功となるので、二次除菌に移ります。前回の薬のうち、抗生剤が1種類変わるだけです。8週間後に再度呼気試験を行います。当院での成績ですが、強力な胃酸分泌抑制薬が発売されてから、約500人が除菌治療を受けられていますが、除菌率は格段に向上し、二次除菌まで施行して除菌出来なかった方はわずか1名です。

よくあるご質問

Q1. 胃カメラを受けずにピロリ菌の除菌治療は出来ますか?

A. 可能ですが、医療保険が使えず、全額自費となります。ピロリ菌に感染しているかどうか調べるのは、ピロリ菌を除菌するのが目的ではなく、胃に潰瘍やがんが出来ていないか調べる事が目的なのです。厚生労働省は胃カメラを受けずにピロリ菌を除菌することを認めていません。

Q2. ピロリ菌を除菌すると、将来胃がんになる心配はなくなるのですか?

A. 胃がんになるリスクは下がりますが、決してゼロになるわけではありません。ピロリ菌に感染していた方は、胃粘膜の萎縮の程度にもよりますが、おおよそ1~2年に1回必ず胃カメラを受けてください。

Q3. ペニシリンアレルギーなのですが、除菌出来ますか?

A. 健康保険で認められている除菌薬には、一次・二次除菌ともペニシリンが含まれています。自費治療になりますが、除菌は可能です。

Q4. 除菌の薬を服用している最中にお酒やタバコをのんでいいですか?

A. アルコールについては、二次除菌薬服用中は禁忌です。タバコは除菌率を下げるという報告があります。いずれにせよお酒やタバコは1週間くらい我慢したほうがいいでしょう。

Q5. 親兄弟がピロリ菌感染していた、親が胃がんだった。調べたほうがいい?

A. 親族間のピロリ菌感染は、父子よりも母子間の関連が高いという報告があります。また兄弟間の感染については、同じ環境で過ごしていた関係から、関連性を指摘されています。いずれにせよ親族にピロリ菌感染者がいる場合、自身も検査したほうがいいでしょう。

Q6. 他院でピロリ菌の除菌に成功したのに、胃がんリスク検診でピロリ菌陽性と判定されました。

A. 一度ピロリ菌の除菌に成功した方が再感染する確率は0.2%くらいとの報告があります。胃がんリスク検診で用いる血清抗体検査では疑陽性判定がしばしば起こります。当院では現在感染しているかどうか、別の検査方法で確認することが出来ます。

当院院長は、日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染専門医の資格を持っています。当院での除菌症例は2,000例を超え、豊富な臨床経験を有しています。ピロリ菌のことでしたら、お気軽にご相談ください。